法線マップは バンプマップ の一種です。モデル表面に凹凸や溝、傷などのディティールを追加する特殊な種類のテクスチャで、実際のジオメトリであるかのようにライトを受けます。
例えば、ボルトや溝、またはリベットなどを、航空機の機体のようなサーフェス全体につけたいような場合があります。これを実現する方法の 1 つは、以下のように、それらの細部をジオメトリで作成することです。
このような場合に、そんな細かい部分を “実際の” ジオメトリで作成するのは、通常、よい方法ではありません。右側に、細部のネジ 1 個を作成するのに必要なポリゴン数が表示されています。実際に表面に細かいサーフェス細部を沢山作り込んだ大きなモデルは、描画するためにとても多くのポリゴンを必要とします。このような状況を避けるために、法線マップを使って細部を表し、大きなモデルには低解像度のポリゴンサーフェスを使用するべきです。
代わりに、この細部をバンプマップで表すと、サーフェスジオメトリがはるかに単純になり、細部は、ライトが表面でどのように反射するかを調整するテクスチャとして表されます。最新のグラフィックスハードウェアはこれを非常に高速に実行できます。これで、メタルサーフェスを低ポリゴン数の平面にすることができ、ネジ、リベット、溝、および引っかき傷がライトを捕らえ、テクスチャのおかげで深度があるように見えます。
現代のゲーム開発におけるアートのパイプラインでは、アーティストは 3D モデリングアプリケーションを使って、とても高解像度なモデルから法線マップを作成します。次に、法線マップがモデルの低解像度のゲーム対応バージョンにマップされるため、法線マップを使用して元の高解像度の細部が描画されます。
バンプマッピングは古くからあるグラフィックスの手法ですが、いまだに写実的なリアルタイムグラフィックスを作成するための主要な技法の 1 つです。一般的に、バンプマップは N法線マップ や ハイトマップ とmp呼ばれますが、これらの用語は、以下で説明するように少し意味が違います。
実際に法線マッピングがどのように機能するかを説明するために、まず最初に “法線” とは何か、リアルタイムライティングでどのように利用されるかを説明します。恐らく、最も基本的な例は、各サーフェスポリゴンが、ライトに対する表面角度に従って単純に照らされるモデルです。表面の角度は、面から垂直方向に突き出た線として表現することができ、この面からの方向 (ベクトル) は 面法線、もしくは単純に 法線 と呼ばれます。
以下の画像では、左側の円柱は基本的な平らなシェーディング (陰影) になっていて、ポリゴンごとにその光源に対する相対的な角度で陰影がつけられています。面が平らなため、各ポリゴンのライティングはポリゴンの領域全体で一定です。ここに、メッシュのワイヤーフレームが表示された同様の円柱が2つあります。
右側のモデルは左側のモデルと同じポリゴン数ですが、シェーディングはより滑らかに見えます。ポリゴンのライティングによって曲面のように見えます。なぜでしょうか? その理由は、ライトを反射するために使用される各ポイントの 面法線 がポリゴンの幅全体で徐々に変化するため、サーフェス上の任意のポイントで、ライトは そのサーフェスがまるで湾曲しているかのように バウンドします。実際はそうである、平らな定数ポリゴンでないように見えます。
平面図で表すと、平たんなシェーディングを使用した円柱の表面の 3 つのポリゴンは以下のようになります。
面法線はオレンジ色の矢印で表されます。 これらは、ライトがサーフェスでどのように反射するかを計算するために使用される値です。サーフェスの法線は同じ方向を指しているため、各ポリゴンの長さ全体でライトが同じように反応することがわかります。 これにより “平たんなシェーディング” が得られ、左の円柱のポリゴンにハードエッジがあるように見えるのはこのためです。
一方、スムーズシェーディングを使用した円柱では、ポリゴンの面の各地点で面法線が変化します。
法線の向きが平らなポリゴンによるモデル表面全体にわたって徐々に変化していると、モデル表面のシェーディングは、滑らかな曲面のように見えます(緑の線で表されています)。これは、メッシュの実際のポリゴン形状には影響していません。フラットな表面上のライティング計算のみに影響します。形状が実際に曲面に変わった訳ではないので、照角から見ると実際の角ばったポリゴン形状が露わになりますが、大体の画角では、円柱は滑らかな曲面に見えます。
この基本的なスムースシェーディングを使うと、法線方向は 頂点ごと でしか保存されないので、モデル表面全体にわたって値を変更すると、ある頂点から次の頂点までは補完されます。以下の表では、赤い矢印が頂点ごとに保存された法線方向を表し、オレンジの矢印は、ポリゴンの領域全体にわたって補完された法線方向を例示しています。
法線マッピングは、テクスチャを使用してモデル全体の法線を変更する方法に関する情報を格納することにより、この法線の変更をさらに一歩進めます。 法線マップは、通常のカラーテクスチャと同様に、モデルのサーフェスにマップされた画像テクスチャです。ただし、法線マップのテクスチャの各ピクセル (テクセルと呼ばれます) は、平たんな (または滑らかに補間された) ポリゴンの “真の” 面法線から離れた面法線方向の偏差を表します。
この図も 3D モデルのサーフェス上の 3 つのポリゴンの 2D 表現であり、各オレンジ色の矢印は法線マップテクスチャのピクセルに対応しています。下は、法線マップテクスチャの 1 つのピクセルスライスです。 中央では、法線が変更されており、ポリゴンの表面にいくつかのバンプの外観が表示されています。これらのバンプは、これらの修正された法線がライティングの計算に使用されるため、サーフェス上でのライトの表示方法によってのみ表われます。
元の法線マップファイルの色は、一般的に青っぽい色相になっています。そしてここには、実際のライトや陰影は、まったく含まれていません。理由は、色そのものを表示することは意図されていないからです。代わりに、各テクセルの RGB 値は、方向ベクトルの X、Y、Z 値に置き換えられ、それらはポリゴンサーフェスの補間された基本的な滑らかな法線への変更に使用されます。
これは、ちょっとした長方形とテキストを押し出す凹凸情報を内包した、シンプルな法線マップです。この法線マップをUnityにインポートし、 Standard Shader の法線マップスロットに入れる事ができます。マテリアルでカラーマップ(アルベドマップ)と複合し、上の円柱メッシュの表面に適用すると、結果はこのようになります。
繰り返しますが、これは実際のポリゴンメッシュ形状には影響しません。モデル表面の光源計算にのみ影響します。このモデル表面の文字と形状の突き出た部分は本当に突き出ている訳ではないので、視射角から面を見ると、本当は平らな面である事が判ってしまいます。ですが、ほとんどの視野角では、円柱の表面にディティールが浮き出ているように見えます。
一般的に、法線マップは、3Dかテクスチャのアーティストが、彼らの製作するモデルやテクスチャの組合せから生成します。アルベドマップの内容やレイアウトは、ミラー (左右反転) される事がよくあります。時には手描きで生成したり、時には3Dアプリケーションでレンダリングしたりします。
3Dアプリケーションで法線マップをレンダリングする方法は、このドキュメントの主題から外れてしまいますが、基本的な考え方としては、3Dアーティストが2種類のモデル(ポリゴンですべてのディティールを作成した超高解像度モデルと、“ゲーム用”の低解像度モデル)を製作する、というものです。高解像度モデルは、快適にゲームを実行するにはディティールが多すぎ(メッシュのトライアングルが多すぎ)ますが、3Dモデリングアプリケーションで法線マップを生成するのに使われます。低解像度モデルは、法線マップに焼き込まれたディティールを使って描画するので、ジオメトリのディティールはかなり省くことができます。典型的な使い方としては、キャラクターの服装のしわ、ボタン、バックルそして縫い目などが挙げられます。
普通の写真的なテクスチャのライティングを分析して、そこから法線マップを生成するソフトウェアも存在します。それらでは、元となるテクスチャが単一方向から照らされているものと仮定して、明部と暗部が解析され、面の角度が設定されます。しかしながら、バンプマップを使う場合には、アルベドテクスチャ画像が特定の方向からのライティングを受けていない状態になっている事を確認してください(ライティングをまったく受けていない状態のモデル表面の色が理想的です)。ライティング情報は、ライトの向き、面の角度、そしてバンプマップ情報などを使ってUnityが計算するからです。
ここに二つの例を挙げます。ひとつは単純な繰り返しの石塀テクスチャと、それに対応した法線マップ。もうひとつはキャラクターのテクスチャアトラスと、それに対応した法線マップです。
法線マップ(Normal Map) と ハイトマップ(Height Map) はそれぞれ、バンプマップ(Bump Map)の タイプ です。両方とも、単純なポリゴンのメッシュ上にある詳細を表現するためのデータを含んでいますが、そのデータの保存方法が異なります。
左上の画像では、石塀のバンプマッピングにハイトマップが使用されています。ハイトマップはシンプルな白黒のテクスチャで、各ピクセルが、表面上のそれぞれの地点がどの位盛り上がって見えるべきかを表しています。ピクセルの色が白に近いほど、そのエリアが高く盛り上がって見えます。
法線マップは、変更を加えていない面法線によるサーフェイスの向きと、各ピクセルの方向の違いを表しているRGBのテクスチャです。ベクトルをRGB値として保存している事から、これらのテクスチャの色味は、青っぽい紫色になります。
現代のリアルタイム3Dグラフィックハードウェアは、法線マップに依存しています。なせなら、サーフェイスでの光の反射結果に変更を加えるベクトルを内包できるからです。Unityでは、バンプマップ用にハイトマップも設定できますが、ハイトマップは使用する際のインポート時に法線マップへ変換されます。
法線マップを使うのに、この事を理解する必要はありません。この段落は、とばしても大丈夫です。RGBのカラー値はX,Y,Zのベクトルの方向を保存するために使われます。Zが“上方向”になります(逆に、Unityでは慣例的にYが“上”)。加えて、テクスチャのZ値は、0.5が足されて半分になります。これは、すべての向きのベクトルを保存するためです。そのため、RGBカラーをベクトル方向に変換するには、2倍してから1をひかなくてはなりません。例えば、RGB値が (0.5, 0.5, 1) つまり16進数で #8080FF の場合、ベクトルにした結果は(0,0,1)になります。この値は法線マッピングでの“上方向”になり、モデル表面は何も変わりません。これはこのページの最初の方にあった“実例”の法線マップの、平らなエリアの色と同じです。
値が (0.43, 0.91, 0.80) の場合、ベクトルは (–0.14, 0.82, 0.6) になり、サーフェイスはかなり急斜面になります。このような場合の色味は、石壁上部のフチ部分の法線マップに見受けられるような、明るいシアンになります。これは、それらフチ部分が、石の平坦な部分とはまったく違う角度として光を受ける事を表しています。
法線マップ(Normal Map)
法線マップは、アセットフォルダーのテクスチャファイル置き場から普通にインポートできます。ですが、Unityにそのテクスチャが法線マップであることを宣言する必要があります。これは、インポート設定のインスペクターで “Texture Type” を “Normal Map” に変更することで行います。
白黒のハイトマップを法線マップとしてインポートするときは、 “Create from Greyscale” オプションにチェックを入れます。それ以外は同じです。
“Create From Greyscale” を選択すると、インスペクターに Bumpiness のスライダーが表示されます。これを使うと、ハイトマップを法線マップに変換する際の角度を、どのぐらい急にするか調節できます。値を低くすると、ハイトマップでコントラストが高い部分でも、緩やかな角度の凹凸になります。値を高くすると、凹凸は誇張され、当たった光の明暗差が激しくなります。
法線マップをアセットに登録したら、マテリアルインスペクターにある Normal Map スロットに入れる事ができるようになります。もちろん Standard Shader には Normal Map スロットがありますし、古いシェーダーでも、その多くは法線マップをサポートしています。
法線マップやハイトマップをインポートしたのに、法線マップである印(上で説明した Texture Type: Normal Map の選択)をつけなかった場合、マテリアルインスペクターは警告を出し、以下のように解決を指示します。
“Fix Now” をクリックするのは、テクスチャインスペクターの設定で Texture Type: Normal Map を選択するのと同じ事になります。これは、テクスチャが本当に法線マップだった場合は機能しますが、グレースケールのハイトマップだった場合、自動的に検出される事はありません。ハイトマップの場合は必ずテクスチャインスペクターウインドウにある “Create from Greyscale” オプションを選択してください。
スタンダードシェーダーのマテリアルインスペクター下段に、二枚目の法線マップ用スロットがある事にも注意してください。これは、ディティールを増やすための追加法線マップを使える、という事です。通常の法線マップ用スロットと同じ方法で、このスロットに法線マップを追加することができますが、二枚の法線マップのスケールやタイリング数を変えて、高レベルのディティールを作成することが意図されています。例えば、通常の法線マップで乗り物や壁のパネルを明確にします。二枚目の法線マップは、タイリングによってベースとなる法線マップより5~10倍密度を上げ、表面上のとても小さなひっかき傷やすり傷の凹凸をつけます。それらのディティールは、かなり近づいたときだけ見えるぐらい細かくすることができます。これだけの量のディティールをベースの法線マップ上に描こうとすると、かなり巨大なテクスチャになってしまいますが、異なるスケールで合成すれば、二枚の小さな法線マップテクスチャだけで、全体を覆う高密度なディティールを実現できます。